吉岡憲章
経営コンサルタントとして第一線で活動し続けるかたわら、2019年には77歳という超高齢で経営情報研究科の博士号(Ph.D.)を取得した吉岡憲章(よしおか・けんしょう)さん。自らの博士号取得の経験をベースに、シニア世代の大きな可能性を提言する新著『定年博士(ていねんはくし)』が2020年3月に刊行される。
なぜ、吉岡さんは定年を迎えるような年齢で博士号取得を志したのか。吉岡さんの体験から学べる、人口減・少子高齢化が避けられないこれからの日本社会で充実したセカンドライフを送るヒントとは。
本稿では、作家エージェントで自身も『花戦さ』などのヒット作品の著者でもある鬼塚忠さんが、人生100年時代における挑戦と学びの大切さについて明らかにする。
(鬼塚)77歳にして博士号を取得された吉岡さんですが、具体的にどうやって大学院を選んだのか、どれくらいのお金がかかってどれほど人生を豊かにしたのかなどを聞きたいと思います。
吉岡さん、具体的にはまず、どうやって大学院を選んだのか聞かせていただけますか。
(吉岡)博士号を取得するためには、まず大学院に入学しなければなりません。
どの大学院を選ぶか悩みますよね。そこは、ヒューマンデザイン研究所の「MBAランキング比較一覧」が参考になります。国内のMBAランキングでは5つ星を取得した大学が2校あります。
慶應義塾大学大学院経営管理研究科経営管理専攻と、早稲田大学大学院経営管理研究科ビジネススクールです。4つ星を取得した大学は、京都大学大学院、東京理科大学大学院など6校が続いています。
(鬼塚)吉岡さんはどういう基準でどこの大学院を選んだのですか?
(吉岡)私が選択ポイントとして考えていたのは、こうしたブランドではなく、経営実務家として最も重視すべき経営の実務に直結した論理的な研究ができることと、これまた非常に重要なことですが、多忙な毎日なので、仕事をしながら地理的に通える範囲にある大学であるということ、仕事をするのに支障のないカリキュラムを組んでいる大学ということの3つです。
はじめのうちは、私の母校である早稲田大学大学院にしようと思っていましたが、偶然にも、多摩大学大学院が自宅の近くにあることを知り、観に行きました。すると、そこに「超実学志向MBA」の看板が目に入りました。もしかすると、私が探していたのはこれかもしれないと思いました。
(鬼塚)そのキャッチコピーに納得し、多摩大学大学院を選んだのですか。
(吉岡)いや、それだけではないです。面接でこう聞きました。「看板には超実学志向とありますが、教授の方々は実際に企業経営をした経験があるのですか? それとも研究だけの先生ですか」。まるで逆面接ですね。
すると、「教授陣はすべて経営を経験しています」との答えでした。ますます思いは強くなりました。カリキュラムも平日は18時から、土日は終日組まれていました。多忙な私にも無理のない範囲です。
なので、皆様には、大学のブランドがほしい方には前述の大学ランキングが参考になりますが、研究目的が明確な場合には、それに合致した大学院を選択するのがよいと思います。
(鬼塚)では実際にかかる費用はどれほどでしょうか。
(吉岡)私の場合を例に挙げますと、修士課程に2年、博士課程に4年、合計6年間在籍しましたので、授業料は年100万円の6年分で600万円。入学金は修士課程と博士課程の2回で30万円×2の60万円、なので学費は合計660万円かかりました。
それ以外にかかる費用としては、博士論文を取得するには、いくつかの学会に入らなければなりませんのでその学会費が必要になります。さらに研究を深めるためにはどうしても参考書籍が必要になります。
これは出来るだけ安く購入するようにしましたが、それでもかかります。学術書は一般書籍の3倍くらいの値段がしますのでね。結局、大学院に支払う660万円以上に400万円以上、合計1千万円は超えました。
(鬼塚)究極の質問をさせてください。吉岡さんは、それだけのお金と時間をかけても、博士号を取得してよかったと思いますか。もし、よかったと思ったら、何がよかったか教えていただけますか?
(吉岡)結論から先に申し上げますと"よかった"と思っています。 まず、博士号を取っていなければ今回の「定年博士」を上梓し、同年代の方々に私の生き方を問うことは出来なかったと思います。
次に、何と表現すればいいか分かりませんが、自分の研究が、学術の世界からも評価されたというが自信につながりました。この自信はクライアントとの信頼も築きました。問題点を学術的な面からもアプローチできるので、クライアントは信頼してくれると思います。
さらに、博士号を取得することで一区切りすることができ、新たな次のステージをスタートすることができます。「おいおい、78歳のおじいさんが新しいステージだって、何を言うんだ」と思われるかもしれません。しかし私は大真面目です。この先も次のステージを目指します。
ちなみに次のステージは2つあります。ひとつは、本業に関するものでは、"どのようにビジネスモデルを変革すれば、企業価値を向上させられるか"というテーマに取り組み始めました。
もうひとつ、本業以外では、もっと人間としての中身を充実させたいと思っています。どん欲に新しいことに挑戦したい。具体的には近現代の歴史研究と、英会話です。学ぶことに年齢は関係ないです。いくつになっても学ぶ気力があれば学べます。むしろ、高齢の方が残り時間がないだけに必死でしょう(笑)。
(鬼塚)ところで、この対談は定年を迎える年齢になっても、博士号を取って社会に貢献するという話でしたが、話を聞くと仕事が大好きなのですね。
(吉岡)見抜かれていますね(笑)。私の職業は経営コンサルタントです。ある人は経営に関するアドバイザーだと思っています。またある人は、この肩書の方が時々新聞を賑わせるのでグレーな仕事と思っています。
ですが、私は、経営コンサルタントは、厳しい経営に追い込まれた中小企業の経営者を治癒する医者のような存在だと思っています。不健全な経営をしている経営者を見れば、どうにかして健全な経営に戻してあげたいとついつい思ってしまいます。
例えば、赤字続きの企業なら、ムダやロスを省き、売上を伸ばして体力をつけ収益改善をさせます。借金を返すために借金を重ねるような企業の場合は、資産の活用などをして借金を減らすようします。他にも急を要する資金調達や銀行交渉などもします。
このように、今まで生きてきて、いつの頃からか、困った社長を助けたい、日本社会に貢献したいと思うようになりました。そういった経営コンサルタントという仕事が大好きになっていました。
だから博士号の勉強も自分のためというより、困っている中小企業の社長のため、日本経済浮揚のためなのだと思っています。
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